トラック野郎☆全10作レビュー
最近トラック野郎シリーズを一気見したので記事を書きます。
『トラック野郎』とは
1975〜79年の東映作品で、毎年お盆と正月の時期に公開されていたコメディ映画シリーズ。全10作。
主演は菅原文太さんで、デコトラの運転手「一番星」こと星桃次郎を演じています。
ストーリー展開は松竹映画『男はつらいよ』とまったく同じパティーン(主人公の名前も「車寅次郎」に対抗して「星桃次郎」)。
全国をトラックで旅する桃次郎がマドンナに一目惚れ→ライバルのトラック野郎登場→ケンカ(物理)&ワッパ勝負(ワッパ=ハンドル)で、最後はお約束のデコトラ爆走…というフォーマットです。
毎回登場する有名ゲストや、アクの強いキャラクターが見ていて楽しいのと、ケレン味たっぷりでオゲレツな演出や、漫才的な掛け合いが続いたかと思えば、ふいにシビアな問題が差し込まれていたりと、観客を飽きさせない工夫がいっぱいに溢れた娯楽映画です。
その中でも私がこの作品でとくに好きなところは、桃次郎がマドンナに対してひたむきにアプローチするところです。
マドンナが太宰治が好きと知れば「おいしいダザイの詰め合わせ買ってきます!」と伝えて、学生服に身を包み、太宰治全集を読みまくる。
また別のマドンナが剣道を嗜んでいれば、ひとり山に篭って『葉隠』を読み、剣の腕を磨く…
ギャグ的に描かれていますが、自分を捨てて愚直にアプローチする桃次郎の姿を見ているからこそ、たとえマドンナと気持ちが通じ合わなくても、最後のシーンで潔くすべて振り切ってボロボロになって爆走する一番星号と桃次郎の姿に感動するんだと思います。
毎回登場するマドンナは素敵なレディーですから、当然すでに別の相手がいることも多いです。
しかし、桃次郎はそんなマドンナが別の相手と結ばれるために、一番星号を爆走させることもしばしば…
というかそんな役割ばっかりで、見てて正直マドンナにも桃次郎にも「なんでや!?」と思っていたのですが、観ているうちに気づきました。
人を好きになって、その相手に振り返ってもらえなかったときに、悲しんだり恨んだりするのは「好き」というより「執着」なのだということです。
野に咲く花を見て、きれいだと感じることと、その花を摘んで自分のものにしようとすることの違いのようです。
そこがさっぱりしているのが、私が星桃次郎の一番好きなところです。
愛されるより愛すること。
桃次郎にとってはこれが重要で、ただ振られるだけの話に終わらない『トラック野郎』の魅力のひとつになっています。
トラック野郎☆全10作レビュー
①トラック野郎 御意見無用 (1975)
「緊急車両が通過します!」と拡声器でアナウンスして、渋滞している道路を周りの車を退かせながら走る一番星と、相棒のジョナサン(愛川欽也さん)のコンビの登場で始まり、何の権限があって天下の行動でこのようなことを…と、冒頭からもう面白い。
デコトラやドライブインなどディテールの凝った画を見せて、笑えたり泣けたりする登場人物たちの掛け合いなど、テンポよく話が進んでいくので、1時間半の中にたくさんの要素が収められていることに驚きます。
②トラック野郎 爆走一番星 (1975)
女ドライバー(加茂さくらさん)と桃次郎が深い仲になったと周りが勘違いするくだりが最高(シーン中ひと夏の経験が流れている)。
ライバルのトラック野郎は田中邦衛さん演じるボルサリーノ2。
③トラック野郎 望郷一番星 (1976)
ゲストに演歌歌手の都はるみさんが登場しますが、そういえば『幕張』で奈良重雄が浴槽の中で『アンコ椿は恋の花』を歌ってましたね。
最後の爆走シーンで、長距離を走るタイヤが途中で破裂(バースト)しないようにトラック野郎たちが協力するシーンが感動します。
④トラック野郎 天下御免 (1976)
序盤で女ドライバー(女子プロレスラーのマッハ文朱さん)と一悶着あって、10台以上のミキサー車軍団に追いかけられるカーアクションがいいですね!
桃次郎がマドンナの由美かおるさんのためにバクチで一番星号まで質にしようとしたのにビビりました。
⑤トラック野郎 度胸一番星 (1977)
マドンナは片平なぎささんで、当時17歳くらいなのですがむっちゃ可愛いです。少し志田未来さんに似てると思いました。
それから、最後の爆走シーンの前に桃さんが警察署で切る啖呵が激アツです。
「度胸一番星!よし、一世一代のスピード違反だ!警視総監に言っとけ!パクれるんならパクってみろってな!」
これを大勢の警官の前で宣言するとは、なんちゅう度胸や…
⑥トラック野郎 男一匹桃次郎 (1977)
マドンナは夏目雅子さん。堺正章さんと左とん平さんもゲスト出演していて、のちに『西遊記II』のキャストになっています。
中盤に餅すすり大会という超危険なイベントシーンがあるのですが(この映画では毎回全国各地の祭りとか、郷土色豊かな場面が出てくる)、これは死人が出まくるのでは?と思ってたら全員泡吹いて倒れててウケたのと、最後の爆走シーンでは一番星号がありえない跳躍してて脱力しました^^;
⑦トラック野郎 突撃一番星 (1978)
桃次郎が最初、マドンナの原田美枝子さんをUFOから降りてきた宇宙からの使者と勘違いするシーンがあるのですが、そのあと『北の国から』でも原田美枝子さん演じる凉子先生がUFOと交信する話がありましたね。宇宙人的というか、神秘的な魅力のある人ということでしょうか。
あと、金子信雄さんが出ていて桃さんにぶっとばされていたのですが、『仁義なき戦い』の山守組長を思い出して痛快でした。
⑧トラック野郎 一番星北へ帰る (1978)
冒頭のジャリパンのくだりはめっちゃ笑ったんですが、それ以外は桃さんの出自や、借金苦のエピソードなど、東北の肌寒い景色も相まって全体的に暗く物悲しい回。
ですが、ドラマも画も素晴らしいです。
未亡人のマドンナ(大谷直子さん)が小さい息子に「いつまでも人の過ちを咎めてはいけないわ」と叱ったあとのシーンに胸が痛みました。
⑨トラック野郎 熱風5000キロ (1979)
今回は桃次郎よりもマドンナ(小野みゆきさん)とノサップ(地井武男さん)の話が主軸で、迫力のクライマックスもこの二人の話。
最後の爆走は取ってつけたような感じで、ドラマは面白いのですが、笑いも少なく全体的にシリアスです。
桃次郎が初期のような道化を演じずにだんだんとかっこいいキャラになっていったのは、7作目から登場したせんだみつおさん演じる玉三郎(三番星)が桃次郎の3枚目の役割をし始めたのが要因かと。
あと、小野みゆきさんが歴代マドンナの中で唯一の男勝りキャラ、太ももぱつぱつのセクシー系の人で、桃次郎が一目惚れせずに性愛に寄っていたのも異色。
単にずっと男だらけの山奥に閉じ込められていたからだと思う。
⑩トラック野郎 故郷特急便 (1979)
シリーズ初のWヒロインに、森下愛子さんと演歌歌手の石川さゆりさん。
1作目で桃次郎に惚れる女ドライバー(モナリザお京)が拾った一番星のジッポが、最後のマドンナとのシーンでも効果的に使われています。
桃さんに会えるのもこれが最後かと思うと、フッと灯りが消えたようで、寂しい気持ちが込み上げました。
🚚⭐️
菅原文太さんと愛川欽也さんが歌うオープニング曲「一番星ブルース」を怒髪天がカバーしていて、盛り上がるアレンジになっています。